産後ケアレポート(1)
妊娠・出産という明るくおめでたい一大イベント。妊娠期間を無事に終え、出産という大仕事を果たし、周りからも「おめでとう!頑張ったね、お疲れ様」と声をかけてもらって「やれやれ」といった感じ。
でも、ちょっと待って!
何だか、これで「終わった感」がありますが、むしろこれからが本番です。本当に大切なのは出産後のこれから。あまり注目されていない産後のことですが、この時期をどう過ごすかで家族の未来が大きく変わってくるかも知れないのです。
自然分娩の場合、出産後5日程度で退院というのが現在の平均的なパターン。核家族化が当たり前な現代では退院後は実家に里帰りしたり、そのまま自宅に戻り身内に(大抵は妻の母親ですが)手伝いに来てもらったり、また最近では親の高齢などを理由に夫婦二人のみで赤ちゃんの世話をすることも珍しくありません。しかし夫は仕事を休めないことが多く、実質的には妻が一人で育児と家事を行なう状態。産後間もないため体調も戻っておらず、不安とストレスを抱え、更に授乳も3時間おきで慢性的な睡眠不足。外出もままならず、家の中で赤ちゃんと二人きりの状態がずっと続き、イライラやネガティブな感情が強くなってきます。
欧米では出産後すぐに退院。職場への復帰も産後1週間程度という人もいるほど。しかし、欧米の場合はベビーシッターに育児を手伝ってもらい、食事も宅配や惣菜を利用。掃除洗濯もハウスキーパーに頼むことがごく普通に浸透しています。だからこそ早めに退院、早めに職場復帰をしても、自宅ではゆっくり過ごせる体制が整っている為心配ありません。
日本ではシッターやキーパーに頼る習慣はまだ浸透しているとは言えません。理想を言えば夫婦のみや妻のみが頑張るのではなく、産後しばらくの間は第三者の手を借りながら家事・育児等をすることをおススメします。頼ることは決して悪いことでも贅沢なことでもありません。妊娠・出産を経て疲労しきった身体と心のケアはむしろ必要なことなのです。
自分のケアやメンテナンスをきちんとすることで、心身が健康を取り戻し、その後の生活に安定と余裕が生まれてきます。身体と心は密接に繋がっていて、心の状態が悪くなると身体の調子も悪くなり、逆に身体の調子が悪いと心のバランスも保てなくなってきます。
近年、不登校や学級崩壊、引きこもりなど、子どもの心の問題が深刻さを増しています。その原因のひとつに、母親が産後の心身のケアをしっかり出来ないまま子育てをすること、それがその後の子どもの心の成長に関係しているといわれています。産後、体調が元に戻っていないままの育児や家事。誰にも手伝ってもらえず全てを一人でやることで、時にはイライラしてしまうこともあります。特に育児は思い通りにいかないもの。それに不安やストレスを感じ、母親の心の動きに敏感な赤ちゃんに伝わってしまうという結果になっているのです。
そんな産後のケアに対応出来る取り組みもスタートしています。比較的良く知られているのが「産後ケアサービス」。ベビーシッターとハウスキーパーの両方の業務と、母親へのケアをプラスしたサービスです。
赤ちゃんのお世話全般、洗濯・掃除・炊事・買い物などの家事全般、そして母親への授乳指導・乳腺炎などの予防に役立つ乳房のケア・栄養指導などを行ないます。
また自宅に来てもらうものではなく、専用の産後ケア施設に宿泊してサービスを受けるものもあります。1週間の宿泊で50万円近くかかるものもありますが、それを高いと感じるかどうかは価値観次第ですよね。もちろん短めの宿泊、日帰りでのケアを行なっている所もありますが、大切なのは母親が体調を整えながら、ゆったりとした気持ちで、しっかりと愛情を我が子に伝えられる状況を作れるかどうかです。
お隣の韓国では既にこの産後のケアが重要視されていて、国が費用を補助する仕組みもあります。
産後は授乳やオムツ替え、沐浴など、何かと前かがみになって行なうことが多く、それが姿勢の悪さに繋がり、肩こり・腰痛の原因になります。また妊娠中に広がった骨盤がちゃんと元に戻らないと、血行障害を引き起こし、冷え症や腰痛、内臓の疾患を招いてしまうことにもなり兼ねません。
そんな産後の母親に嬉しい、産後ケア用品も販売されています。会陰切開などで普通に座るのが苦痛な人にはリングクッション(昔は円座と呼んでいました)。産後の骨盤矯正を手伝う骨盤ベルトやニッパー。授乳時に腕や肩の負担を減らしてくれる授乳クッション。むくみを防ぐ着圧ソックス。授乳中の母親の栄養補給を手伝うカルシウム・鉄分・葉酸などが入ったサプリメントなどもあります。また骨盤や体型の矯正には運動も欠かせません。医師の許可が出たら、少しずつ骨盤体操やストレッチ、バランスボール、スクワットなども行ないましょう。心のバランスを整えるヨガもおススメです。
この時期にきちんと骨盤や体型を元に戻しておかないと、その後の健康状態に大きな影響を与えることになります。これから先、年齢を重ねていくうちに、思いがけない体調不良を引き起こすこともあるので要注意です。
妊娠・出産・育児は、それぞれのテーマで注目してもらえますが、産後のケアに関してはあまり深く注目されてきませんでした。しかし「10ヶ月もの間お腹の中で大事に育み、その生命を世の中に送り出す」という大仕事を果たしたのですから、産後のケアというのは本来もっと重要視されるものでなければいけません。母親が深い愛情を持って、おおらかな気持ちで我が子に接することが出来るように、家族単位でだけでなく社会全体で担っていく仕組みを構築してほしいものです。